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福岡地方裁判所 昭和43年(ワ)39号 判決

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対して金一八九万八四九二円およびこれに対する昭和四〇年三月二三日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の本訴請求を棄却する。

三  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じ、これを六分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(本訴関係)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告、以下単に被告という)は原告(反訴被告、以下単に原告という)に対し、金二四〇万九六円およびこれに対する昭和四〇年三月二三日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱の宣言。

(反訴関係)

一  請求の趣旨

1 原告は被告に対して金五一万三四二八円およびこれに対する昭和四八年二月八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴関係)

一  請求原因

1 原告は電気器具の販売等を、また被告は運送業を業とする者である。

2 ところで原告は昭和四〇年三月一日被告に対して、被告岡山支店に保管されているテレビ拡大レンズ三三六〇個(二八〇ケース、以下、本件物件という)を福岡市山荘通二丁目七六番地の一所在株式会社白石電気商会(以下、白石電気という)宛に運送することを委託した(以下、本件運送契約という)。ところが被告は本件物件を、誤つて福岡市金屋町所在中外商事株式会社(以下、中外商事という)宛に配送してしまい、しかも中外商事から本件物件の返還を受けることもできないため、結局被告の本件運送契約上の債務は履行不能に帰した。

3 そのため原告は左のように金二四〇万九六円の損害を蒙つた。

(一) 本件物件の引渡に代わる損害金一六八万円

(1) 本件物件はかつて訴外藤枝一弘(以下、藤枝という)が所有していた。原告は昭和三九年一二月三〇日藤枝から本件物件を金一五〇万円で買受けた。

(2) 仮りに本件物件が藤枝の所有でなかつたとしても、原告はそのことを知らずにこれを買受け平穏公然とその占有を始めたものであり、しかもこれにつき左のような事情があつたので無過失である。すなわち、

原告は中外商事の元営業部長から藤枝を紹介され、さらに藤枝は自分を中外商事の四国、中国地方の総代理店の責任者だと紹介して原告にその旨の名刺を交付し、従業員の給料ボーナスならびに手形の決済資金が入用であるからと説明して本件物件の買受方を原告に依頼したものであつた。

(3) 以上のように原告は前所有者からの買受または即時取得によつて本件物件を所有しているものであり、しかも本件運送契約締結以前に原告はこれを被告に対して金一六八万円の価格を有するものとして寄託していた。したがつて同額の損害を蒙つたことになる。

(二) 転売契約履行不能による損害賠償金六〇万円

(1) 原告は昭和四〇年二月下旬ころ訴外親和物産株式会社(以下、親和物産という)に対して、本件物件のうち一八〇〇個(一五〇ケース)を代金一八〇万円で売り渡す旨の契約をし、同日親和物産から違約手付金三〇万円を受領した。ところが被告の本件物件誤送のため、原告は転売契約を履行できず、同年三月下旬ころ親和物産に対して手付金を返還するとともに金三〇万円相当のテレビ他一点の品物を損害賠償として交付した。

(2) また原告は昭和四〇年二月二〇日ころ訴外立花敬通(以下、立花という)に対し、本件物件のうち一二〇〇個(一〇〇ケース)を代金一〇八万円で売り渡す旨の契約をして同日立花から違約手付金三〇万円を受領した。ところが原告はこれを履行できず、同年三月下旬ころ買主立花に対し、受領していた手付金を返還するとともにさらに金三〇万円の違約金を支払つた。

(三) 被告との損害賠償交渉費用金一〇万円

原告は原告の損害等について被告と交渉するため関係者一名を伴い福岡、東京間を往復したが、その結果、左の出費を余儀なくされた。

(1) 福岡東京間の二人分航空機往復旅費金四万二〇〇〇円

(2) 二人分一泊宿泊費      金  五六九二円

(3) 通信費その他雑費      金五万二三〇八円

(四) 転売契約による得べかりし利益の喪失金一七〇万九六円

(1) 原告は本件物件を一個当り金四四六・四円で買い受け、そのうち一八〇〇個(一五〇ケース)を一個当り金一〇〇〇円で親和物産に転売し金九九万六四八〇円の利益を上げることになつていたが、被告の誤送により転売契約を履行できず右転売利益を得られなかつた。

(2) 同様に原告は本件物件のうち一二〇〇個(一〇〇ケース)を一個当り金九〇〇円で立花に転売し金五四万四三二〇円の利益を予定していたが、それが得られなかつた。

(3) 同様に原告は本件物件のうち三六〇個(三〇ケース)を一個当り金九〇〇円で白石電気に転売し金一六万三二九六円の利益を予定していたが、得られなかつた。

(五) 原告は以上合計金四〇八万九六円のうち、受領済の金一六八万円を控除した金二四〇万九六円の損害を蒙つている。

4 そして原告は昭和四〇年三月二二日被告に対して右損害の賠償を請求した。

5 そこで原告は被告に対して金二四〇万九六円の損害金およびこれに対する履行を請求した日の翌日である昭和四〇年三月二三日から支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因第1項記載事実のうち、被告が運送業を営むことは認めるが、その余の事実は知らない。

2 同第2項記載の事実はいずれも認める。

3(一) 同第3項(一)記載の事実はいずれも知らない。但し原告が被告に対して本件物件を寄託価格金一六八万円として寄託していた事実は認める。なお本件物件の所有権は現在原告もしくは白石電気に帰属しているが、その価値は製造原価たる金一一一万八八八〇円程度しかないものである。

(二) 同(二)記載の事実のうち違約金契約の存在は否認し、その余の事実はいずれも知らない。

(三) 同(三)(1)(2)記載の出費は認めるが、(3)の出費は知らない。

(四) 同(四)記載の事実はいずれも知らない。

4 同第4項記載の事実は否認する。

三  抗弁

1 (転売利益に対する抗弁1)

本件物件は後になつて「特許法」違反、「不当景品類及び不当表示防止法」違反の製品であることが判明し、昭和四四年末ころ公正取引委員会によつて排除命令が出された無価値な物件である。それが欺罔的手段により価値ある商品として取扱われていたにすぎないのであるから、事実が判明した時期いかんに関わらず無価値として評価されるべきである。したがつて原告は転売利益喪失による損害を蒙る余地がない。

2 (転売利益に対する抗弁2)

仮りに原告の主張する価格で転売が可能であつたとしても、これによる転売利益は無価値な物をあたかも価値ある物として欺罔した結果であるから法律により保護されるべき正当なものではない。すなわち早晩、原告は転買主たる親和物産および立花から不法行為による損害賠償請求または不当利得返還請求を受ける運命にある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は全部否認する。

(反訴関係)

一  請求原因

1 本訴関係で自陳したように、被告は原告の運送委託の趣旨に反して、本件物件を中外商事に誤送してしまい、しかもこれを取戻すことができなかつた。

2 そこで被告は昭和四〇年三月二二日金一六八万円を荷送人たる原告および荷受人たる白石電気に交付した。これは原告もしくは白石電気に損害が発生した場合の保証金という趣旨であり、損害賠償金という趣旨で交付したものではない。

3 しかしながら本訴関係でも述べたように原告には損害は発生していないものである。仮りに損害が発生しているとしても、せいぜい本件物件の製造原価金一一一万八八八〇円(一個当り金三三三円)および原告が被告との損害賠償の交渉のために出費した旅費宿泊費の金四万七六九二円である。

4 したがつて被告は原告に対して不当利得返還請求として過払金五一万三四二八円およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和四八年二月八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因第1項記載の事実は認める。

2 同第2項記載の事実中、被告が金一六八万円を交付したことは認めるが、その余の事実は否認する。金員交付の相手は原告のみであり、またその趣旨は誤送による損害賠償金である。

3 同第3項記載の事実は否認する。なお原告は本訴において原告の蒙つた損害金から、被告より受領した金一六八万円を控除した金員のみを請求している。

(訴訟告知)

被告は昭和四三年四月一五日、中外商事および白石電気に対する訴訟告知書を当裁判所に提出し、同書面は同月一七日白石電気に、同月一八日中外商事にそれぞれ到達した。

第三 証拠関係(省略)

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